「楓ちゃん殺し」について
善良なる人々にはあまり関係がない話かも知れない。
いくつかの「犯罪」を犯してきた蛙は、その「類型」ということについて考えることがある。
まず、「暴力」ということであるが、餓鬼の頃には「流血」の凄惨な「喧嘩」を自分でもしてきたし、(早熟であったせいだろう、歳の割には腕力ではすこぶる付きの『強者』だったのだ。今では誰も信じないけれど...小学生の高学年の頃のこと...)、成人してからは他者の話になるけれども、いくつかの事例について「現場に居あわせる」ということがあった。
言えることは、勿論「敗者」も相当惨めなものだけれども、暴力的に圧倒した側も、神経が酷くササクレだって、ちょっとも愉快な気分になることがない。
「人殺し」などということは知らないが、或いは「殺すことになるかも知れない」状況に立ったことはあった。四尺あまりの刀状の鉄板で機動隊員に殴りかかったことがある。
これは相当の恐怖だった。
ジェラルミンの楯を打ちすえていただけだったのだが。
「ヤクザ映画」の「殴り込み」場面で、刀で何人も切って捨てた主人公の、その手から刀が「離れない」という話があったように思う。
これは、実際のケースの経験の取材に基づいた設定だったろう。
蛙も、同じような話を何人もの人から聞いている。
「人をどつく」或いは「肉体的に傷つける」行為は、行為者の側を、異常な興奮の坩堝の中にたたき込む。
多分、アドレナリンとかドーパミンとかが、脳内で激しく沸き立っているはずだ。
人は本来、「人殺し」など、できないようにできている。
宮台真司もどこかでそんなことを言っていた。
「何故、人を殺してはいけないか」という問いそのものが本来成立をしない。
例えば、「人殺し」を目的とする「軍隊」では、非常な訓練が強要されることによって初めて「人殺しの軍隊」として成立可能なのだといった文脈だったかと思う。
テレビドラマでも、主人公は「てめぇらッ!人間じゃねぇッ!叩っ切ってやる!」と言わなければならないし、「レイシズム」の徹底無くして「アメリカ軍」は成立をしないのだ。
「捕虜虐待」という話も、対象を「人間ではない」と思いこまなくては可能ではない。
奈良の「楓ちゃん殺し」事件の犯人がつかまった。
その犯罪の態様や、犯人の行動、例えば、死体のメール画像を自身の携帯に送って、知人に見せびらかしたりしたことなどについて、多くの人は「理解不能」のように言う。
そんなことはない。
実に「分かりやすい」行為なのだ。
自身を押し流してしまうかも知れない急流の向こう岸まで、飛び石が続いている。
犯人は最初の跳躍によって、一番目の石に飛びつく。
急流の勢いは、一層、恐怖を誘う。
向こう岸までたどり着かなければならない。
その向こう岸は、もしかすると「地獄」なのかも知れない。
跳躍は、自身の身体能力の発現であり、その成功は、自身をエクスタシーの頂点にたたしめる効果を持つ。
二番目の石、三番目の石と「跳躍」は続く。
岸は、飛ぶ毎に一層自分から遠ざかっていくかに見える。
恐怖に震えながらも、快感は自身をとらえて離さないし、エクスタシーは更に倍加する。
犯人は既にこの時、気付いている。
いくつの石を飛べば終わりが来るのか、そもそも終わりがあり得るのか、向こう岸は「地獄」なのか、自分自身にも本当は分かってはいないのだということに...
無意識のうちに体が恐怖にひしがれ、悲鳴を発している。
誰か、或いは何かが自分を救ってくれて、「向こう岸」へと安全に渡してくれないだろうか。
それは「無意識」なのだが、自身の行為を一定の方向へ結びつけていく。
「逮捕」されたがっているのだ。
それが「救い」なのだから...
今回のケースで、「犯人逮捕」に至らなかったとしたら、もう一度、彼は跳躍しなければならないし、それは、新しい『幼児殺し』ということになる外ない。
このパターンでは、犯人は自身が「許されぬ罪」を犯していることを自覚している。
政治家の「一億円授受事件」などは、「罪」の自覚はあるかも知れないが、何度も同じ橋を渡ってきたのだし、誰もがやっていることなのだから、「罪を犯す」ことについてのエクスタシーがない。
それだから、犯罪のパターンがそもそも違っている。
問題は、こういう事件では、犯人が「何故、急流をしか見ていないのか」ということだ。
普通、一般に、人は、このような種類の「罪」を犯すようにはできていない。
「急流」があることを、「そこを飛ぶ快感があること」を知らない。
「犯罪」の経験がないからだ。
そんなものは勿論、ない方がいいに決まっている。
「急流しか見えない」人間を、救うことが可能なのか、いつ、どうやって...
最初の跳躍の引き金はなぜ引かれたのか...
問題は、そのように問われているのだと蛙は考える。
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